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日本の伝統芸能に親しむ。古典落語「ラジコンこわい」

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(出囃子)

トンッ トンッ

チャンチャララン、チャンチャララン、チャンチャラランラチャンチャララン

チャンチャラランラン チャンチャララン トンットンッ

 

 

え~、ご来場のことありがとうございます。

 

え~、みなさまはテラスハウスというものをご存知でしょうか?

テレビの影響で、

「男女が共同生活をするおしゃれなシェアハウス」なんてイメージがあるかもしれませんが、

え~

もともとは一戸建てがくっついて並んだような集合住宅、いわゆる「長屋」という意味なんでございます。

 

落語にはこの「長屋」というものがよく出てきまして~

 

まぁ、この長屋というところに、若いものがとぐろを巻いて集まっている、なんてのが、落語の舞台になるわけでございます。

 

今日も男衆が昼間っから無駄話に花を咲かせているんでありますな~

 

熊蔵:「おい、なんだい、

また退屈な連中がみんなそろってやがるじゃねえか。

あっ、いや、一人足りないね~、誰だい?

安次がいないの?

どうしたんだろうねぇ安さん。」

 

安さん:「うわぁ~、た、た、た、助けてくれ~!」

 

熊さん:「真っ青な顔して、一体どうしたってんだい、安さん」

 

安さん:「で、で、出たんだよ~、

そこの路地に、

ズズーッと長いのが、グルグルッととぐろを巻いて、

鎌首をヒョィッと持ち上げてさぁ~」

 

 

熊さん:「安さん、そりゃぁ… おめぇ、ヘビじゃねぇか?」

 

安さん:「『じゃねぇか?』じゃなくて、ヘビなんだよ~

もう、おっかねぇの、おっかなくねぇのったら…!

ヘビの野郎、おれへ向かって『おいで...おいで』って手招きして…」

 

熊さん:「ウソつきやがれ!

どこの世界に手招きするヘビがいるんだよ。

まったく、人を脅かしといてヘビ!? ったく、臆病だねぇ~」

 

安さん:「そんなこと言ったってさ、おれはガキの頃からヘビは大の苦手なんだ。

ヘビだけじゃねぇ、鰻、どじょう、長い物はなんでもこえ~んだよ。

”うどん”も”そば”も怖くて食えねーよ。」

 

熊さん:「だらしがないね~、まったく、

ま、人間、偉そうなこと言ったってひとつくれぇ怖いものがあるってのが正直な話だ。

おぅ、富さん、おめえさんは何が恐い?」

 

富さん:「え?おれかい? そう、面と向かって聞かれると決まりが悪いけど…

まぁ、カエルだな…」

 

熊さん:「へぇ、じゃあ、宮さんは?」

 

宮さん:「おれは、ナメクジ」

 

熊さん:「なんだよ、ヘビから始まってカエル、ナメクジかい? 三すくみが揃っちまったな。

おい、そのすみっこでタバコ吸ってるの…誰だい? え、なんだ亮さんじゃねぇか。

亮さん、りょーさん、

お前さんは何か怖いもんは無いかい?」

 

亮さん:「あー?

さっきから黙って聞いてりゃあだらしがねえじゃねえか。

人間は万物の霊長といって、いちばんえれえんだぞ。

それが何だってんだ。

ヘビが怖い?カエルが怖い?ナメクジが怖いだって?

情けねぇ~、

おめえら、人間やめちまえっ!!」

 

熊さん:「たいそうな啖呵を切るじゃねぇか。

じゃあ、なにかい?

亮さんにゃ恐いものは何も無いのかい?

ヘビとかクモとか。」

 

亮さん:「当たりめえよ、ナメクジが恐いってヤツ、よく聞いとけ。

ナメクジにきな粉を塗して食ってみろ。

葛餅よりずっと旨めぇんだ。

クモなんざ、納豆に混ぜて食うと糸の引き様が全然違って旨めぇの旨くねぇのったらねぇぜ。

ヘビだって、そこいらの店で出す鰻より、よっぽどうめえぜ。」

 

熊さん:「おいおい、そんなわけねぇだろ。

俺は落語を聞いてんじゃねえんだよ…」

 

亮さん:「へっ、この通り、俺は恐いものなんざねぇんだ!

なんでも持って来やがれってんだ、

何も怖いものはねぇんだから!

でも…あっ、いや…」

 

熊さん:「な、なんだよ、その『あっ』てのは?

ちょっと調子が変わってきたねぇ」

 

亮さん:「いや、その…、一つだけ怖いものを思い出しちまってな…

いや、実はおれにもあったんだよ、怖いものが。

思い出しただけで寒気がしてきた…

ああ、脈が早くなってきた…む、胸が苦しい…」

 

熊さん:「なんだよ、急に情けなくなっちゃったな。

で、なんだよ、その怖いものってのは?

言っちまいなよ、そのほうが気が楽になるぜ」

亮さん:「俺の、、、怖いものは、、、ラ、ラジコン…」

 

熊さん:「ラ・ラジコン?ってのはどんな虫だい?」

 

亮さん:「虫じゃね、ラジコンだよ。」

 

熊さん:「ラジコンってのは、プロポで操縦して動かす車のラジコンのことかい?」

 

亮さん:「よしとくれよ…ラジコンと聞いただけで怖いってのに、プロポで操縦なんて…」

 

熊さん:「へぇ~、こいつは変わってやがる、ラジコンが怖いとはなぁ~

じゃあ、あれか?タミヤのバギーとか怖いのか?」

 

 

亮さん:「や、やめてくれぇ!

そんなメジャーなメーカーを出されたら寒気がしてくらぁー。

あぁ、タミヤのバギーを思い出したら気分が悪くなっちまったよ。

ちょっと隣の部屋で休んでいいか?」

 

熊さん:「ああ、そうしな、そうしな。

おぅ、富さんと宮さん、布団敷いてやんな。

どうだい、亮さん、医者呼ぼうか?」

 

亮さん:「いや、、それはよしてくれ、、ラジコンで寝込んでるなんて知られたくねぇ…

横になってりゃじきに治る…」

 

熊さん:「そうかい、じゃゆっくり休みな」

 

こうして亮さんは隣の部屋で休むことになったというわけです。

 



 

熊さん:「おい、安さん、富さん、宮さん。

ちょっとこっちに、こっちに…

今の聞いたか?

亮のやつ、あのざまだ!

あの野郎、いつも威張り散らして、俺たちを散々馬鹿にしてきやがった。

今日も言いたい放題言いやがって!

それが、挙げ句の果てにラジコンが怖いだと? 笑わせるねぇっ!?」

 

宮さん:「どうだろうね、ここらであの野郎をギャフンと言わせるためにさ、ラジコン買ってきて、あいつの寝てる枕元に山積みにしてやろうじゃねぇか」

 

熊さん:「そいつぁ面白れぇや! 乗ったよ、その話!

よーし、亮の野郎に永年の恨みを晴らしたいヤツは、銭をはたいてラジコンを買ってこい!

特にバギーが怖いって言ってたな。

いろんな種類があった方が面白いや!」

 

こんな調子で、おのおの、バギーラジコンを買って帰ってきました。

 

熊さん:「こりゃまたずいぶんと揃ったねぇ、

グラスホッパーに、ワイルドワン、オプティマ、スーパードッグファイター、

このポルシェ959…ってのはバギーか?

まぁいいや。

よーし、このラジコンをヤツの枕元に持っていこうじゃねぇか。

で、ヤツがキューッと参っちまったところですぐに医者を呼んで来ておくれよ。」

 

こんな調子で、それぞれが亮さんの寝ている枕元にラジコンを置きます。

 

 

熊さん:「おーい、亮さん、具合はどうだい?」

 

亮さん:「なんとか、動悸は治まったようだが…

頭がボーっとするせいか、夢うつつとして、ラジコンが枕元にあるような気がして…」

 

熊さん:「へへっ、枕元にラジコンが?

じゃあ、ちょっと起きて、本当にラジコンがあるか、自分の目で確かめてみたらどうだい?」

 

亮さん:「うるせぇな、まったく。『起きて、自分の目で見ろ』だと…

あぁっ、枕元にっ、こんなにラジコンがぁ!!

ああぁっ、こ、こんなに山積みに!

うぎゃゃぁぁぁっ」

 

キュイーン、キュ、キュイーン

 

宮さん:「始まった始まった!

うぎゃぁぁ、で悶絶してるぜ、へへっ」

 

亮さん:「怖いっ、怖いよぉ~、

なんだ、こりゃ、ワイルドワン、なんて怖いんだぁっ(キュイーン、キュルキュルキュル)、

うわぁ~、ターボオプティマだ~、怖い、ル・マンモーターが付いてる(キュイーン、キュルキュルキュル)、

怖いよ~、怖いよ~

 

安さん:「ん? な、なんだよ、『キュイーン、キュルキュル』ってのは…

ああっ、見てみろよ、あの野郎!

怖い怖いと震えながら、楽しそうに走らせてやがる!」

 

熊さん:「ふざけやがって、こん畜生! 一杯食わされたぁ~!

やい! 亮公! お前の本当に恐いものはいったい何なんだっ!」

 

亮さん:「いやぁ~、今度は速~いツーリングカーが1台怖い」

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